「笑点」の司会でもおなじみ、先代の、五代目三遊亭圓楽師匠のご紹介です。
三遊亭圓楽の、スゴいところ
豪放さがスゴい
私が物心ついた頃に「笑点」の司会者をやっていたのが圓楽師匠で、小遊三、好楽、木久蔵、歌丸、楽太郎、こん平というのが不動のメンバーでした。
司会の圓楽師匠は、「いちばん楽な仕事」などと言われながら、ガハガハ笑いながら、楽しそうにやっていたのをよく覚えています。
高座に上がっても、持ち味はそのワイルドさで、滑稽噺にしろ人情噺にしろ、圓楽師匠の落語は、感情の振れ幅大きく、グワーっと押し寄せてくるような力強さです。
声も大きく良く通るし、ニュアンスのつけ方もオーバー。
人物描写力がスゴい
これだけ押し出しがよく、ワイルドな人物でありながら、噺を聞いていると、「圓楽」という人物が不思議なほどに前面に出て来ないのです。
同時期に活躍した名人と比較しても、志ん朝の名調子、談志の哲学性なんかはいつでも強烈に感じるものですが、圓楽師匠が演じている時には「圓楽」という人物よりも、長屋の隠居、魚屋の勝五郎、与太郎その他、噺の登場人物が目の前にそのまま現れ、泣いて、笑っているのを感じます。
プレイボーイで型破りで、くよくよしないという人柄が、落語で描かれる江戸の町人の気質に近いのためでしょうか。
またはワイルドな人柄が「増幅装置」として作用しているようにも思われます。
なんというか、噺の中から質量を持った感情のカタマリが現れて、そのまま座布団の上に座ってしまったような落語家です。
博識さがスゴい
意外にも博識で、噺の途中でちょっとした注釈というか、ウンチクが飛び出します。
これも結構面白いし、豆知識としてタメになります。
川柳だか狂歌のようなものが、ポンポンと飛び出してきます。
お金が一杯あっての旅なら楽しいんですが、
金はなくなる、もうどうにもならない。
そんなときの旅なんてのは大変に心細いもんで。
ひもじさと、寒さと恋を比ぶれば、恥ずかしながらひもじさが先
剣道の基本は何と言っても青眼のもんで、
敵をただ、討つと思うな身を守れ おのづから洩る賤が家の月
じりっ・・・じりっ・・・
さぁこうなると、下手なものは自ら破綻を来していきます。たが屋は・・・
「まごまごしてると、今日もお前ぇ、野宿になッちまうぞ」
「何だいその野宿ってのは?」
「行きあたりバッタと共に草枕
野っ原で寝るのを野宿てんだ」
なんていうの。
こういうのがパッと飛び出すようになってみたいものですね。
三遊亭圓楽の、おすすめ演目
万金丹
江戸をしくじった旅人の初五郎と梅吉。食べ物と宿を求めて、道中の寺で、しばらく厄介になります。さて二人が留守番をしていると、弔いの依頼が。
二人は適当に葬式をやって、香典を頂いてしまおうと画策。「いろはにほへと」や都々逸で経を上げます。最後に戒名をくれろと言われ、無筆の二人がこれだと言って差し出したのは薬の包み紙。「官許伊勢朝熊霊法万金丹」・・・
「これが戒名って・・・
でえいちこの官許ってのは何だね?」
「カンキョウ? カンキョウってのは今
棺の前で経を読んだろ? だからそらぁカンキョウじゃねえか」
「ああそうかね・・・棺の前で経を読むから官許かね。
伊勢朝熊ってのは?」
「生きてるうちは威勢が良いが死んでみりゃ浅ましくなっちゃう。
だからイセアサマだ」
「あれぇー、父っつぁま浅ましくなっちまっただかねぇコレ。
霊法・・・あんだねこの霊法てなぁ?」
「お経なんてぇのはな、礼によって長くも短くもなるんだ。
なあ? だから礼は法によって法は礼によって決まるてンでレイホウだ」
笑いどころが次から次に飛び出す滑稽噺です。
よく聞くとかなり無理のあるシーンも多いですが、そこも圓楽師匠の力技と好相性です。
細かい事は気にせずにやっちゃう所がまた面白い。
たがや
隅田川の川開き。花火見物で橋の上は人だかり。
橋の一方から馬に乗った侍が人を押し分けやってくる。もう一方からやってくるのが、たが屋。人に押されてつんのめった拍子に、担いでいたタガがほどけ、侍のかぶっていた笠を弾き飛ばした。
「無礼者! 斬り捨てるから屋敷へ来い!」
いくら謝っても許してくれない侍に、たが屋も堪忍袋の緒が切れる。
「えらい啖呵を切りおったが・・・
この、二本差しが目に入らぬかッ」
「んなもの目に入るかい!
二本差しが目に入るようだったら両国で手品使いになってらァ」
「貴様・・・この二本差しが恐くはないかッ」
「恐くねえやンな物ァ。
二本差しが恐かったら鰻が食えるかい。
気の利いた鰻屋は5本も6本も串刺してらぁ。
手前っちはそんな満足な鰻を食った事無いだろザマぁ見やがれ。
ハハハ・・・
俺も久しく食わねえ・・・」
「何を申しておる!
貴様言わしておけば・・・ウゥーーーーンっ・・・」
「唸ってやンな糞詰まりめェ!
おゥ、どっからでも切ってくれィ!
首から切るか肩から切るかケツから切るか、
さァ、威勢良くやってくれィ!」
この「たがや」も、啖呵が聞かせどころの演目です。
志ん朝や談志の啖呵は、流れるようにまくし立てて聞かせますが、圓楽師匠の啖呵には、昂ぶった感情が徐々にあふれ出すような圧力があります。
この後、たが屋と侍のチャンバラとなります。ここの勝負の流れは噺家によって違いが大きいです。
落語的な面白さに結び付きにくい箇所ではあるので、「サッと体を躱すとエイっと切りつけた」くらいに、アッサリやる方が多いですが、圓楽師匠の場合は、間合いや構えや呼吸など得意のウンチクで、いちいち理屈をつけるのが独特です。
そしてなんといってもこの話は「サゲ」ですが、
圓楽師匠はとにかく景気が良い!
長屋の花見
貧乏長屋の大家さんが、店子を集めて花見を企画します。
しかしお金のない大家さんが用意したのは酒瓶に入れた番茶と、カマボコ・卵焼きに見立てた大根の漬物。大家さんだけがハシャイで、妙な花見が始まります。
「ぶつぶつ愚痴をこぼさずに、なぁ?
威勢良くな、アタシが囃したてるから。
そォォーら、花見だ! 花見だ!」
「夜逃げだ夜逃げだ・・・」
「なぜそういうことを言う。
すこーし威勢の良いことを言ったらどうなんだ。
おばさんの遺産を相続したとか」
「・・・なァ兄弟!
こないだおじさんの胃酸もらってねェ」
「ふぅぅーん、そうかい?」
「アレ飲んだら胸やけがおさまったよ」
「どうしてお前たちはそうくだらないことを言うんだ・・・
もう少し本当らしいこと言ったらどうなんだ」
「じゃあ言うよ・・・
なあ兄弟!
このごろ千円札で鼻かまねぇ」
これもまた落語でしかあり得ないようなバカバカしい話です。
こういう話を楽しむには、圓楽師匠の力技がピッタリ。
まとめ
というわけで、
ワイルドで、人物描写力に優れ、意外と博識な三遊亭圓楽師匠のご紹介でした。
まずは「万金丹」「長屋の花見」「たがや」から、どうぞ。